3月20日東京某所にて。
その日夏鎖芽羽は待っていた。
「遅い……」
約束の時間は2時。しかし、30分過ぎたにもかかわらずあいつがやってくる気配はない。
「ったく……」
夏鎖芽羽は時計を気にしながらも、新人賞に投稿する作品の執筆をしていたが、やつが遅いことにそろそろ限界を覚えていた。
「少し休憩するか……」
椅子から立ち上がり、軽く伸びをする。すると、突然スマホが振動を始めた。画面には綱垣真尋の四文字が表示されている。素早く画面を操作し、電話に出る。
「もしもし? 」
『あっ、夏鎖君?』
「お前今どこにいるんだよ?」
『あなたの家の前にいます』
「はぁ? なら早く来いよ」
『いや、どうすればいいのかわからなくて……』
「はぁ?」
夏鎖芽羽の家はマンションなので、一般人はエントランスから呼びベルを鳴らすはずだが……
「普通にエントランスから入ってくればいいだろ?」
『いや、部屋番号わからなくて……』
ちなみに言っておくが、綱垣が夏鎖の家に来たのは初めてではない。一般人なら部屋番号くらい覚えているはずだ。
「000だよ。お前、何回も来てるだろ? なんで覚えてないんだよ?」
『いや、本当にすいません……』
「いいか、000だぞ? 他の番号押すなよ?」
万が一でも綱垣が間違えないように念を押した。程なくして、呼びベルが鳴りモニターに直視が難しい綱垣の姿が見えたので吐き気を堪えながら、エントランスの扉を開けた。
しばらくした後、某有名ゲームに出てくるようなゾンビにそっくりな人のようなものが現れた。綱垣だ。
「いやー、遅れてすまない!」
「もういいから早く入れよ」
綱垣から発せられる汚臭に顔をしかめながら夏鎖は綱垣を家の中ーー自分の部屋に招き入れる。
「とりあえず前に言ってた作品できたから読んでくれよ」
「わかった」
綱垣はそう言うと、荷物を置いてノートパソコンがある机に歩みよった。しかし、ここで第一の事件が起こる。
「そういえばあのアニメのヒロイン死んだよね」
「⁉︎」
「あと、某有名ドラマも人死んだね」
「⁉︎⁉︎⁉︎」
そう、夏鎖がまだ見ていない作品の重要なネタバレである。
「お、お前……まだ、それ見てないのに……」
「えっ?」
「えっ? じゃねーよこのクソ野郎‼︎ 遅刻してきたくせにいきなりネタバレかよ‼︎」
「すいません‼︎ すいません‼︎」
最悪だった。一般人は普通このような話題をだすときは「ねぇ、ねぇ、あの作品見た?」から始めるものを綱垣はそれすらなくネタバレをしたのだ。湧き上がってきたものは怒りを通り越して呆れだった。
「はぁ、ともかくその作品読んでくれよ。その間、SUNder BIRDで出す作品の設定読むから」
「わかった」
そして、本日二度目の事件が発生する。
なんと、綱垣がカバンから取り出したのは暗号が記された一枚の紙なのだ。
「……何これ?」
「いやー、実は設定持ってくるの忘れて……」
夏鎖は絶句した。今日、わざわざこの地球外生命体を家に呼んだ理由は間違いないくこの設定について話し合うためだったのだ。それなのに……
「ふざけんなよ‼︎」
「わー‼︎ すいません‼︎ すいません‼︎」
夏鎖は天井を見上げた。SUNder BIRDはまだまだ飛び立ちそうにない。
ー to be continued