どうも夏鎖芽羽です(≧∇≦)この感想はブログ「本達は荒野に眠る」のものです。無断転載は禁止しています
さて、今回紹介するのは松村涼哉さんの「僕が僕をやめる日」です!
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家庭の事情から社会の底辺に近い劣悪な環境に追いやられていた立井潤貴。自殺寸前まで追い込まれた彼を救ったのは高木健介と名乗る少年だった。彼は衣食住を提供する代わりに高木健介として生きるように立井に命じる。高木健介の代わりとして大学に通い充実した毎日を送る立井。しかしそんな日常も高木健介の失踪と共に幕を閉じる。高木がいないことに戸惑うことも束の間、警察から立井が高木として殺人の疑いをかけられていることを知る。果たして高木は何者なのか、そして明かされる高木の過去とは…

松村涼哉さんの最新作。読むのが遅くなってしまいました。松村涼哉さんの作品はデビュー作から追っていて、前作がこれまでの作品と異なる面白さがあったので今作でもそのような面白さを期待していました。そしてそれを遥かに上回る面白さがありました。

父の起こした事故がきっかけで転落人生の果てに社会の底辺層まで落ちた立井。八畳一間に4人で生活をし生活保護費をピンハネされ、貰える食事はわずかで風呂も2日に一回。さらに腰を悪くしたせいで満足に働くこともできない…そんな彼が自殺を考えた時、高木健介と名乗る1人の少年に出会い運命が変わっていきます。

高木に頼まれて高木健介として大学に通い、彼を演じることになった立井。生活保護を受けていたような時代とは大違いで、満足に食べれて腰の治療もできて、大学の生活も努力して馴染んでいって…高木が自分を身代わりに使うのは彼が書く小説のためだと信じて生活を続けます。その間、高木は本を読みひたすら小説を書きます。彼の小説は文壇で認められていて、執筆のために立井に代役を頼んでいたのです。表向きは。

そしてそんな生活が2年経とうとした頃、高木は失踪します。そして警察によって高木健介が殺人容疑にかけられていることを知ります。アリバイがあったことでなんとか難を逃れるも、高木は帰ってこないまま。立井は高木を探すことを決意します。

調査の中でゆっくりと明かになっていく高木の過去。彼の送ってきた人生と吉田真衣という1人の少女の存在。高木の小説に残されたメッセージを読み解いていきながら、立井は高木を追います。道中で明かになっていく高木の過去は立井よりも悲惨で、無戸籍時のどうしようもない閉塞感と絶望を見事に描写していました。

そして全てが明らかになる直前の高木が書いた小説のシーンで、あぁ人はこんなにも文章で心を動かされるんだと小説を読んで久しぶりに感じました。そしてどれだけ貧困でも苦しくても手放せないスマホが妙なリアリティを帯びていました。

結末は誰にどんなものをもたらしたのか想像することでまた深みが増すと感じました。鎮魂と祈りが存在しない登場人物の、想像の世界のあの世にこれほど届けと願うことはこれからの人生でなかなかないでしょう。素晴らしく面白い作品でした。

それではこの辺で(≧(エ)≦。)

書籍情報

タイトル



僕が僕をやめる日



著者



松村涼哉



レーベル



メディアワークス文庫



ISBN



978-4-04-912860-4


表紙の画像は「版元ドットコム」様より