どうも夏鎖です(≧∇≦)この感想はブログ「本達は荒野に眠る」のものです。無断転載は禁止しています

さて、今回紹介するのは柴田勝家さんの

走馬灯のセトリは考えておいて

です!
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柴田勝家さんの短編集。ずっと読もうとは思っていたのですが柴田勝家さんの作品は本作で初挑戦となります。バーチャル、信仰、生と死を扱った短編が合計で6作品収められた読み応え抜群の短編集でした。以下各作品の感想です。

オンライン福男
いわゆるアフターコロナSF。新年に行われる福男を決める神社の境内を走る行事。あれがコロナ禍をきっかけにバーチャル空間で開催されることになったということを(多少言葉は悪いかもしれないですが)Wikipedia風に描いた作品。バーチャル空間でいかに早く本殿に辿り着くことができるのかを本気で考える参加者たちのいい意味での馬鹿馬鹿しさがすごく尊い。コミカルな文体も相まってこの短編集の最初に読めて嬉しい作品でした

クランツマンの秘仏
信仰が質量を持つことの証明に全生涯を捧げたあるひとりの東洋美術学者をめぐるお話。論文長で書かれるのでやや硬さはありますが、それは決して読みづらさに繋がるわけではなくこの作品で描かれる<信仰>がより神秘的なものになっています。日本の某所にある秘仏、いわゆる絶対非公開の仏像に対する憧れと信仰は重さを持つという不思議さにのめり込みました。

絶滅の作法
あらゆる生物が絶滅した地球で異星人が地球人のフリをして生きるというスローライフもの。何気なく見える日常の異物感であったりおかしさがのんびりと流れる時間の中で描かれるのが特徴でおれまた独特な読み味があります。お寿司を作ろうと考えるまでの発想や「じゃあお米から育てよう」と考える主人公・佐藤たちの生き様が楽しかったです。

火星環境下における宗教性原虫の適応と分布
宗教があたかも原虫のように広がったら?というような発想がインパクト抜群なお話。こちらも論文長ではあるのですが読みづらさはなく、宗教が広まる過程の神秘性が補強されています。スルメ的な面白さというか、読むほどに「なんだかよくわからないけど面白い」と感じられる作品でした。

姫日記
著者の自伝的?私小説的?作品。日本史に疎いこともあり楽しみ方が不十分だった気がします。とはいえバグだらけの織田信長の野望のようなゲームを攻略するというコミカルなお話で最後の一文にはくすっとさせられました。

走馬灯のセトリは考えておいて
表題作。かつてバーチャルアイドルだった・柚崎碧のライフログ(死後に自らの分身を残す技術)を作ることになった小清水イノル。柚崎碧は自身が亡くなったあとにかつてバーチャルアイドルだった自分でラストライブをしてほしいと依頼してきて…というお話。Vtuber文化から50年経った未来で柚崎碧が黄昏キエラという自身の分身たる存在にこめた想いが明かされていく過程が素晴らしい。短編ながら著者のVtuberやバーチャルに対する造詣深い描写も感じられ、Vtuber黎明期にVtuberにどっぷり使っていた身としてはとても楽しく読ませていただきました。ラストライブのシーンもすごくいい。とても印象的な作品でした

また作品外にはなりますが解説を担当されている届木ウカさんの文章もすごく良いので本編を読まれた際はぜひこちらも。

それではこの辺で(≧(エ)≦。)

書籍情報

タイトル

走馬灯のセトリは考えておいて



著者

柴田勝家



レーベル

ハヤカワ文庫JA


ISBN

978-4-15-031537-5

表紙の画像は「版元ドットコム」様より