※この雑談は2024/12/1に東京文フリで頒布した「ラノベのよろず本」に収録した内容です。ちなみに「月とライカと吸血姫」が入っていないのですが、いつかちゃんとしたSFラノベ本出すときにしっかり書こうと思って入れてませんでした。すみません。

SFラノベとの出会い

ライトノベルとSFの相性は素晴らしく良いものなのだが、なかなか日の目を浴びていないのも現状だ。作品自体少ないこともあるが……SFに起源を持つライトノベル(諸説あり)なので、自分の読書歴と共に振り返りたい。ちなみにSFというのはいわゆるサイエンス・フィクションとすこし不思議にわかれるが、ここではサイエンス・フィクションのほうを取り扱う。

SFとの個人的な初めての出会いはあさのあつこ氏の『NO.6〔ナンバーシックス〕』だ。中学生の頃に薄いからというどうしようもない理由から朝読書で読んでいた。そこからほどなくしてライトノベルに本格的にハマるようになるのだが『魔法科高校の劣等生』『雨の日のアイリス』『殺戮のマトリクスエッジ』『シュピーゲルシリーズ』秋山瑞人作品、『塩の街』から始まる有川浩の自衛隊三部作(当時は角川文庫からの発売なのでややライトノベルというには苦しいか)などSF要素が強い作品をかなり読んでいた。


一方で一般文芸やハヤカワの作品も数多く読んでおり、高野和明氏の『ジェノサイド』や冲方丁氏の『マルドゥック・スクランブル』貴志祐介氏の『新世界より』など多くのSF作品を読んでいた。ちょうど富士見L文庫から古橋秀之氏の『冬の巨人』も再刊されそれを読んだこともとしっかり覚えている。

特に影響を受けたのが伊藤計劃氏の『ハーモニー』と籘真千歳氏の『θ 11番ホームの妖精』だ。前者は私と同年代の少なからずSF作品に触れている人々は読んでいることだろう。超高度福祉社会で優しさに抵抗する女性たちが人類の最終局面に立ち会う名作だ。原作も好きなのだが個人的には映画も好きで、EGOISTの「Ghost of a smile」は今でも大好きな曲である。

『θ 11番ホームの妖精』は決して有名とは言えない作品かもしれないが、かつて電撃文庫で発売された作品がハヤカワ文庫JAから再刊という少し珍しいルートを辿った作品である。東京駅の上空2200メートルに浮かぶ11番ホームを舞台に、サイボーグの少女T・Bが様々なお客と交流していくというストーリーである。世界が鉄道により数時間で結ばれたという世界観や随所に見られるSF要素がたまらない。T・Bの相棒である義経という狛犬も個人的にはお気に入りだ。
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2012~2015年頃に読んでいたSFラノベ

さて、ここからは2012年あたりから今日まで読んできたSFラノベを振り返っていく。まずは2012~15年頃に読んでいたSFラノベを振り返っていく。この時期はまだ高校生だったので新作とブックオフで買った(高校生当時なのでブックオフで昔のラノベ買っていたのは許してほしい)中古のラノベを中心に読んでいた。読んでいたのはこのあたり
『雨の日のアイリス』松山剛 電撃文庫 2011年
『激突のヘクセンナハト』 川上稔 電撃文庫 2015年
『スプライトシュピーゲル』冲方丁 富士見ファンタジア文庫 2007年
『氷の国のアマリリス』松山剛 電撃文庫 2013年
『くもりのちナイン』石川湊 電撃文庫 2015年
『絶対ナル孤独者』川原礫 電撃文庫 2015年

この時期特に印象的だったのはもちろん『猫の地球儀』だ。高校生当時はライトノベルといえばシャナや禁書のような作品をイメージしていた筆者にとって、登場人物が人間ですらない。舞台が地球ですらない物語はとても新鮮だった。また当時はライトノベルといえば10巻以上続くものと言うイメージも強かったので2巻で完結しており(金銭的に)手に取りやすいというのも魅力的だった。物語の内容については今更語るまでもないが、やはり最後の一文は鮮烈なものだった。今でも好きなライトノベルの一文をあげるなら本作2巻の「海が、」とみーまー6巻の「僕の不幸が君の幸せでありますように」で猛烈に悩む。

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もう一作品印象的だったのが『殺戮のマトリクスエッジ』だろう。冲方丁氏の『マルドゥック・スクランブル』の次に読んだサイバーパンクものである。東京湾上に建設されたメガフロート《東京・ルルイエ》を舞台に人食いの化け物であるホラーを狩るソーマと謎の少女ククリ、そしてソーマに片思いするユーノの物語が描かれていく。スタイリッシュかつ迫力のあるバトルに随所に散りばめられたサイバーパンク要素がたまらない。もちろんソーマをはじめとした主人公たちも魅力的だ。作者の桜井光さんは今やFateシリーズですっかり有名になってしまったが、またライトノベルを書く時が来るのだろうか……

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2016~2020年頃に読んでいたSFラノベ

2016~20年は以下のSFラノベを主に読んでいた。

『D.backup』Physics Point ポニーキャニオン 2016年
『ドウルマスターズ』佐島勤 電撃文庫 2014年
『ストライクフォール』長谷敏司 ガガガ文庫 2016年
『穿天のセフィロト・シティ』平松ハルキ 電撃文庫 2016年
『戦略拠点32098 楽園』長谷敏司 角川スニーカー文庫 2001年
『魔人執行官〈デモーニック・マーシャル〉インスタント・ウィッチ』佐島勤 電撃文庫 20016年
『オリンポスの郵便ポスト』藻野多摩夫 電撃文庫 2017年
『ロル』Physics Point 角川スニーカー文庫 2017年
『ミリオン・クラウン』竜ノ湖太郎 角川スニーカー文庫 2017年
『百万光年のちょっと先』古橋秀之 集英社 2018年
『君と僕との世界再変』音無白野 角川スニーカー文庫 2018年
『モバイル・ソウル』新田周右 電撃文庫 2018年
『デザイア・オーダー』波摘 LINE文庫エッジ 2020年
『デッド・エンド・リローデッド』オギャ本バブ美 HJ文庫 2020年
『こわれたせかいのむこうがわ』陸道烈夏 電撃文庫 2020年
『ラストオーダー』浜松春日 講談社ラノベ文庫 2020年
『さいはての終末ガールズパッカー』藻野多摩夫 電撃文庫 2020年
『ボクは再生数、ボクは死』石川博品 エンターブレイン 2020年

この時期ある意味印象的だったのは『穿天のセフィロト・シティ』だろう。イラストにぽんかんさんを起用し宣伝なども気合いが入っている印象だったが、特に話題にもならずに2巻が出ることもなかった。『モバイル・ソウル』も似たような印象を受けたが、『穿天のセフィロト・シティ』に関しては作者が後にも先にもこの作品しか出していないのが余計に印象に残っている。

前向きな話しをすると電撃小説大賞受賞作からSF作品が出たことは印象的だった。『オリンポスの郵便ポスト』『こわれたせかいのむこうがわ』はそれぞれ火星を舞台にした終末世界もの、管理社会に立ち向かう少女たちを描くディストピアものとして楽しく読ませていただいた。
また新人賞受賞作では『君と僕との世界再変』も印象に残っている。同い年の音無白野氏のデビュー作でど真ん中のディストピアものでこれが角川スニーカー文庫から出るのかと驚いたことはよく覚えている。音無白野氏の作品もまた読みたい。
 
古橋秀之氏の『百万光年のちょっと先』はSF短編集として、オギャ本バブ美氏の『デッド・エンド・リローデッド』はその強烈なペンネームとループもののロボット小説として、『さいはての終末ガールズパッカー』は終末世界を旅する女の子の百合ものSFとして楽しく読ませていただいたが、この期間に読んだ作品で特に印象的だったのは以下の3作品だ。

『重力アルケミック』は『横浜駅SF』で衝撃的なデビューを飾った柞刈湯葉氏のデビュー二作目となる作品だ。重力を司る重素と呼ばれる物質の採掘によって地球の膨張に歯止めがかからなくなり、東京と大阪が5000キロという距離になってしまった世界を舞台に青春が描かれる。この作品を読んでいた当時は大学生ということもあり、大学生である登場人物たちに良くも悪くも共感しながら読み進めていたことを覚えている。また飛行機という現代日本では当たり前に利用されている乗り物が存在しない世界で、飛行機を作ろうとする若者の無謀な挑戦というテーマも非常によかった。今でも柞刈湯葉氏のSFといえば真っ先に本作が思い浮かぶ。時代を経ても色褪せない名作だと思うのでぜひ読んでほしい。

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『スカイフォール』は石川湊氏のデビュー作となる作品だ。実は本作の実質的な続刊である『くもりのちナイン』を先に読んでしまったので、後から追いかけて読むことになった。(どちらも面白いが)個人的には『スカイフォール』のほうが好みだったので後から読んでよかったと思う。地面を捨てた人類は巨大な柱をゴンドラで繋いで生活を築く世界で、ドリフターと呼ばれる流浪者のスズと記憶喪失のクウガが旅をするという作品である。常に空の上を旅するというワクワクする設定に、巨大な塔で暮らす人々とそれを繋ぐゴンドラという設定が魅力的だった。明るく元気なスズとスズに尽くすオートマタのエアというヒロインたちも魅力的だ。ライトノベルが好きな方にも、SFが好きな方にも楽しんでいただける作品だと思う。

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そしてなんといってもこの時期出たSFラノベで大好きなのが『ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?』だ。荒廃した24世紀の東京を舞台に天使のような少女・ウカと狩人兼給仕係のリコが伽藍堂という食堂を運営していくというポストアポカリプス×料理×SFという大好きが3要素合わさった作品だ。1巻冒頭にある荒廃した東京の地図でワクワクするところからこの作品の読書体験は始まる。厨房を司るウカと狂犬で知られるもののウカには逆らえないリコの関係性。そしてポストアポカリプスならではの料理が刺激的だ。兵器の人工筋肉を使用した料理はこの作品でしか出てこないだろう。またウカとリコのお店にやってくるお客との交流も良い。2巻で実質完結してしまっているが、色褪せない不朽の名作だと思う。SF好き、百合好きはぜひ読んでいただきたい。

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ここまで2014年から2020年頃までに読んだSFラノベを振り返ってきたが、紙面と時間の都合上2021年から先を扱うことができなくなった。2021年より先は今後出す同人誌で振り返っていきたい。