※2024/12の文フリ東京32で頒布したよろず本と同様の内容です。

文庫のラノベレーベルでここ数年一番好きなレーベルは間違いなくMF文庫Jである(ちなみにソフトカバーサイズは星海社FICTIONSだ)。好きな理由はもちろん発売される作品が悉く自分に合い面白いということもある。しかし個人的には二人の編集さんに注目している。

MF文庫Jの編集といえば編集Oさんといって過言ではないだろう。『義妹生活』『佐々木とピーちゃん』『死亡遊戯で飯を食う。』『探偵はもう、死んでいる。』とここ数年のMF文庫Jのヒット作は全て編集Oさんの担当作なのでは?と勘違いしてしまうほどヒット作を手掛けている。編集Oさんの担当作を買えば面白さは保証されているようなものだ。

もう1名がみみこさんだ。男性向けレーベルには珍しい? 女性の編集さんで直近では『壊れそうな君と、あの約束をもう一度』『横溝碧の倫理なき遊戯の壊し方』『ゆるふわ先輩は枕で変わる』などを担当されている。みみこさんの担当作はどの作品も面白いのはもちろんなのだが、みみこさんのXのアカウントでの愛のある宣伝にも注目している。つい手に取って読んでみたくなる魅力があるのだ。
そんなお二人の担当作を中心にここ一年で読んだMF文庫Jの作品を紹介していく。

『横溝碧の倫理なき遊戯の壊し方』枢木縁 MF文庫J
9784046840073_600
SNSで人気な引きこもりの探偵・横溝碧は妹にスパコンを買われたことで無一文に。仕方なしに突然世界的大企業が主催するデスゲームに参加することに。殺し合いが行われるゲームで碧がとった必勝法は司会の少女を人質に取ること⁉︎姫野心音という少女に手錠をかけた碧は誰も殺さずに賞金だけを目当てにデスゲームに挑むが、主催者に目をつけられてしまい…

『死亡遊戯で飯を食う。』というMF文庫J史に燦然と輝くヒット作の裏でこうしたアンチデスゲームな作品が出たのは非常に印象的だった。司会の女の子を人質に取り、デスゲームを真面目に行わずに、ひたすらルールの裏をかいてお金をかせぐ。人を殺さないでデスゲームを戦い抜いていく碧の鮮やかな戦法にしびれる。ヒロインの心音は碧に人質として囚われていることもあり、結構絶望感のある女の子だが時折見せる女の子っぽいところが非常にかわいい。テンポよく進んでいく物語がエンタメとしての魅力をギュッと詰め合わせている。気になった方はぜひ。

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『ソフィア、君は死んでいないのか? ~魔法研究を引退した俺は、北欧王女の婚約者と学園生活を楽しむ……はずだった~』風深模杳 MF文庫J
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魔法の名家・火神家の子として幼い頃から研究者としての道を歩む火神陽太。そんな彼は共に研究者としての道を歩んできたフィンランド王国第四王女のソフィアを婚約する。15歳になり研究者を引退した陽太はソフィアと共に魔法学園に入学することに。しかしソフィアは入学式の前日に亡くなってしまう。失意の底に叩き落とされる陽太だがなんとソフィアは同棲するはずだった部屋にいて…陽太があの時確認した死体はなんだったのか。そして学園都市から出ることのできないソフィアの謎は……

本作がデビュー作となる風深模杳氏の作品。編集Oさんの担当作である。ソフィアと婚約するまでの記憶を丁寧に描き、そこからのソフィアの死亡となぜか生きている彼女という展開で物語に一気に引きこまれる。どちらかといえばSFよりな魔法学園の舞台設定も楽しい。魔法学園ものとしての魅力もさることながら、ソフィアは死んでいるのか生きているのかを追うサスペンス的展開も魅力だ。ラブコメもバトルもありと魅力たっぷりな作品だ。

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『君を「ナツキ」と呼ぶまでの物語』涼暮皐 MF文庫J
9784046837073_600
中高一貫の征心館学園に唯一高校からの編入生として入学した景行想。お金持ちや有名人の子息が集まる学園で庶民である想は仕事と称して部活の手伝いをすることで知り合いを増やしていた。しかし仲良くなるのは全員下の名前が<ナツキ>の女の子⁉︎しかもナツキという名前にトラウマのある想は彼女たちの名前を呼べない⁉︎果たして想はナツキたちを下の名前で呼ぶことができるのか……

一部熱狂的なファン待望の涼暮皐氏の最新作。今作は十八番であるラブコメの皮を被った何かということもあり、ファンの一人として楽しく拝読させていただいた。打算で動く想と徐々に彼の周りに集まってくる下の名前が<ナツキ>の少女たち。ナツキという名前にトラウマのある彼は彼女たちと距離を縮める中で賑やかなラブコメが展開されていく。魅力的な登場人物たちによる会話劇でテンポよく読み進めることができ、エピローグで涼暮皐氏ならではの色を出してくるのもファンとして嬉しい。まだまだここから面白くなる作品なので気になった方はぜひ手にとって見てほしい。

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『ゆるふわ先輩は枕で変わる』六畳のえる MF文庫J
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入学式の日、温泉部を名乗る灯雪葉に勧誘された灰島爽斗はかわいい先輩と温泉旅行にいけると浮かれて誘われるがままに入部することに。早速温泉旅館に泊まりにいくと始まったのはなんと枕投げ⁉︎しかもただの枕投げではなく5vs5で温泉旅館全体を使って戦う競技性の高いものだった⁉︎さらに温泉部というのは嘘で実は枕投げ部という部活だったことが明かされる。類まれな視力と聴覚を武器に早速試合で活躍した爽斗は枕投げ部に正式に入部し大会に臨むことになるが……

どこか懐かしさを覚える青春と謎部活を掛け合わせた作品。高度にルール化された枕投げを五人vs五人で行い、試合中は戦略と運動神経がものをいう真剣なスポーツを、試合前後には爽斗と雪葉先輩を中心とした青春を楽しめる。普段はゆるふわ、試合中は真剣な雪葉先輩のヒロインとしての破壊力は爆発的で読めば彼女の虜になること間違いなしだ。敵味方含めてユニークなキャラクターたちによる真剣勝負の枕投げと青春を楽しめるのはこの作品だけだ。ぜひオススメしたい。

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