カテゴリ: 一般文芸・キャラ文芸・ライト文芸

どうも夏鎖芽羽です(≧∇≦)この感想はブログ「本達は荒野に眠る」のものです。無断転載は禁止しています

さて、今回紹介するのは人間六度さんの

きみは雪をみることができない

です!
⚠︎若干ネタバレありです
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サークルの飲み会で芸術学部に通う岩戸優紀と出会った文学部一年の埋夏樹。彼は優紀に恋をして2人は夏を通して親密な関係に。しかし優紀は秋になると突然姿を消してしまう。もう一度優紀に会いたい夏樹は彼女の実家を訪れる。そこで知ったのは彼女が冬の間に冬眠をするという名前もつかない病を患っていることだった。優紀のことが好きな夏樹はなんとか彼女を支え隣にいようとするが…

第28回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞受賞作。作者の人間六度さんは第9回ハヤカワSFコンテストで大賞を受賞した「スター・シェイカー」でデビューしており、本作が2作目となります(とはいっても本作と同年受賞ですが)
正直よくある難病ものかと思っていましたが、丁寧かつ美しく描かれる現代の眠り姫の物語と素晴らしすぎるラストにとことんしてやられました。最高に面白かったです。

まず序盤。眠りにつく優紀のシーンが描かれます。初見ではこれがこの物語の中で描かれる眠り姫の姿か…程度の描写でしたが最後まで読み終わってから改めて読み直すとまた違った角度で見ることができますね…

1章では夏樹が優紀に出会い、恋をして、一瞬の煌めきのような夏を過ごして、そして優紀がいなくなるまでが描かれます。恋の描写もすごくよくて、ダイレクトに好きと伝えるわけではないのに夏樹がこんなに恋をしていて、こんなに優紀のことを思っているんだということが伝わってきます。そして優紀が夏樹の前からいなくなり、優紀の実家まで行って彼女が冬の間に眠る名前もつかない病気であることを知ります。

2章からは冬眠するという優紀に葛藤しながらも向き合う夏樹の姿が描かれます。大学生の夏樹の等身大の恋心や当たり前に好きな人を想う気持ち、でも普通には一緒にいられない優紀に対する感情。迷いや恐れがありながらも、それでも彼女が好きで一緒にいたいという気持ちが痛いほど伝わってきます。美しく、そしてどこか儚げな優紀もまた魅力的で夏樹がこれほどまでに惹かれてしまう理由もよくわかります。

そして物語は3章から動きだしラストへ向けて歩みを進めていきます。これまでは終わりのない雪原を歩くような物語でしたが、優紀の冬眠の真実が明かされ、そして迎えるラストは最高の一言。こんなにもやられたなんて思うラストを迎えた作品は久しぶりです。

あらすじやタイトルからオーソドックスな難病ものという印象を受けるかもしれませんが、丁寧に描かれる物語とラストにしてやられる最高の作品でした。気になった方はぜひ!

それではこの辺で(≧(エ)≦。)

書籍情報

タイトル

きみは雪をみることができない



著者

人間六度



レーベル

メディアワークス文庫

ISBN

978-4-04-914234-1
表紙の画像は「版元ドットコム」様より



どうも夏鎖芽羽です(≧∇≦)この感想はブログ「本達は荒野に眠る」のものです。無断転載は禁止しています
さて、今回紹介するのは遠宮にけさんの「あなたを愛しているつもりで、私は――。 娘は発達障害でした」です!
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深町夕子には七緒という他の子に比べて賢い娘がいた。しかし七緒は奇妙なこだわりを持ち一方的に他人に話し続けたり、同世代の子たちとは一才会話をせずに大人と話したがるなどコミュニケーションに問題を抱えていた。夕子は保育園からの勧めもあり七緒に検診を受けさせる。そこで七緒に発達障害の可能性があることを告げられる。普通とは異なる七緒に向き合いながら夕子は自分の進む道を探して行く…

第8回ネット小説大賞受賞作。担当が岡田さんというところから興味を持って手に取ってみました。普通とは何か、発達障害の七緒のために夕子は何をしてあげられるのか。読んでいる中でいろんなことを考えさせられ、そして彼女達の一つのゴールを見届けることができた作品でした。面白かったです。

普通とはちょっと違うこだわりがある七緒。七緒と同い年くらいの子が興味を示すものには無関心で数字や魚、機械に興味津々。そんな七緒のことをどこかおかしいと思いながらも母親として彼女に接する夕子の姿が序盤は描かれます。

そして夕子が教職に復帰するために七緒を保育園に預け始めてから問題が徐々に表面化してきます。他の子と遊ぼうとせずに自分の世界に閉じこもる七緒。そんな彼女の様子を見た保育園から検診を勧められます。そして発達障害(ADHDとASD)の傾向にあると診断されます。

ここから物語は本格的に動き始めます。どうしても七緒に普通になってほしい夕子。自分の親に縛りつけられた過去と夕子を縛り付けている現状。誰かに頼ることができない夕子は夫である誠司にも、同じ母親である妹の朝子にも、根っこの部分で相談することができずに七緒と2人の世界に閉じこもっていきます。

そんな彼女を誠司が、そして朝子がサポートしていく中で夕子は七緒に対して本当の意味で向き合っていきます。七緒もこれまではずっと自分の世界に閉じこもっているように見えましたが、夕子が変わったことでそうではないことに少しずつ気づかされました。

発達障害という昨今話題になる要素を物語の中に取り入れて、向き合って進むべき道を見つける。発達障害という言葉だけではわからない、根っこの部分を少しでも知ることができる作品でした。もちろん物語としても素晴らしく、七緒のこれからの人生が輝かしいものであることを願わずにはいられませんでした。

それではこの辺で(≧(エ)≦。)

書籍情報

タイトル



あなたを愛しているつもりで、私は――。 娘は発達障害でした



著者



遠宮にけ



レーベル



宝島社



ISBN



978-4-299-01986-8


表紙の画像は「版元ドットコム」様より


どうも夏鎖芽羽です(≧∇≦)この感想はブログ「本達は荒野に眠る」のものです。無断転載は禁止しています
さて、今回紹介するのは神戸遥真さんの「ニセモノ夫婦の紅茶店 ~あなたを迎える幸せの一杯~」です!
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千葉県の館山でひっそりと営まれる紅茶専門の喫茶店「Tea Room 渚」。そこではちょっと神経質で毒舌な店主の秀二と社交的で明るいあやめの二人で切り盛りしていた。しかし2人には4つのルールで繋がった偽装夫婦だった。お互いの部屋には入らない、共同生活に関わることは1人で判断しない、本当の夫婦であることは他言しない、どちらか一方の申し出でいつでも関係を解消できる…そんな偽装夫婦が営む喫茶店には訳ありな客ばかりが訪れて…

神戸遥真さんの作品。以前読んだ「声が出なくなったので、会社辞めて二人暮らし始めました。」がめっちゃよかったので本作も購入。人間味あふれる秀二とあやめのやりとり、渚に訪れるちょっと?困った事情を抱えるお客さんとのやりとりに元気付けられて優しい気持ちになれる作品でした!面白かったです!

東京でとあるサロンのアシスタントとして働いていたあやめ。しかし同棲したいあサロンのオーナーの浮気が発覚し、サロンも同棲も辞めてふらりと電車に乗って館山へ。いいっすね…僕も仕事を辞めて館山までいきたいですw そして海をぼーっと眺めていたところ自殺志願者と勘違いした秀二に声をかけられます。

近々喫茶店を開くという秀二のお店に案内されるも家電ポンコツな秀二は洗濯機を壊していたり、さらにはお店の準備もできていなかったりとひどいありさま。あやめはお節介を発動して、壊れた洗濯機を修理したりお店の片付けを手伝ったりします。そして行くあてのないあやめはそのままお店の手伝いをするのですが、近所の人たちに夫婦と勘違いされてしまいます…

結局、ルールを決めて偽装夫婦として一緒に喫茶店を営むことにした二人。最初は近所の人や観光来たひとたちで賑わっていた渚ですが、家出少女がやってきたり、大切なパートナーを失くした人がきたり、さらには秀二と確執のある彼の母親がお店を訪れます…

トラブルを抱えたお客様に最初は空回り気味で接するあやめですが、秀二の言葉に冷静になったり時には反抗したりしてそんなトラブルを抱えたお客様に寄り添っていきます。こういう人間味のあるやりとりが、温かくて時に優しい。読んでいて元気がもらえますね!

エピローグも彼ららしくてすごく微笑ましかったです!続きもあるので早いうちに読みたいと思います!人間味があふれるヒューマンドラマを楽しみたい方はぜひ!
それではこの辺で(≧(エ)≦。)

書籍情報

タイトル



ニセモノ夫婦の紅茶店 ~あなたを迎える幸せの一杯~



著者



神戸遥真



レーベル



メディアワークス文庫



ISBN



978-4-04-912465-1


表紙の画像は「版元ドットコム」様より



どうも夏鎖芽羽です(≧∇≦)この感想はブログ「本達は荒野に眠る」のものです。無断転載は禁止しています
さて、今回紹介するのは高橋佐理さんの「赤いパーカーの花子さんとカゲフミさま」です!
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中学に入学したばかりの千明は目立つことが苦手な大人しい女の子。ある日、クラスの男の子・瑞樹に誘われて天文部という名のオカルト部へと足を踏み入れる。そこで学校の怪談の一つ真っ赤なパーカーを着た花子さんの話を知る。花子さんを探しに行こうという話になり女子トイレを探すがそこには誰もおらず奇妙な音だけが聞こえた。しかしその日から千明の日常は一変する。千明をいじめようとしていたクラスメイトがなぜか千明と仲良くしようとしたり、他のクラスメイトの女子を突き飛ばしたり…その原因はカゲフミ様という学校の怪談だと考えた千明たち。真っ赤なパーカーの花子さんも現れ、千明たちは花子さんと協力してカゲフミさまと戦うことになるが…

富士見ファンタジア文庫で「さよなら異世界、またきて明日」や「放課後は、異世界喫茶でコーヒーを」を発表されている風見鶏さんの別名義作品。レーベル的には児童書?YA?な感じです。朝読書にオススメだから読書タイムっていうみたいですね。
肝心の作品ですが、オカルト×ホラーな学園ものでとても読やすく大人でも楽しく読ませていただきました!面白かったです!

中学に入学したばかりの千明は目立つことが苦手な大人しい女の子。そんな彼女がいじめのターゲットにされかけ、そして読書好きの瑞樹とオカルト大好きなスバルと出会うところから物語は動きだします。

千明をイジメのターゲットにしようとしていたクラスメイトたちがなぜか急に親しくなりはじめ、さらには千明をいじめようとしていた他のクラスメイトを突き飛ばしたり…そんな奇妙な事件が起こります。このあたりのイジメ描写はなかなかリアリティがあり、ある意味花子さんやカゲフミさまより怖かったですね…いつだって1番怖いのは人間です…

そんな中、学校の怪談と噂されていた赤いパーカーの花子さんに出会い千明たちは協力関係となります。クラスメイトが豹変した理由はカゲフミさまという別に学校の怪談だと考えた千明、瑞樹、スバルの3人はカゲフミさまを倒すために行動を始めます。

終盤は千明の過去を交えながらしっかりと問題が解決されて、エピローグも爽やかで非常によかったですね!児童書?YA?なので読む前はちょっとどうかな?とおもっていましたが大人もしっかり楽しめました。気になった方はぜひ!

それではこの辺で(≧(エ)≦。)

書籍情報

タイトル



赤いパーカーの花子さんとカゲフミさま



著者



佐藤佐理



レーベル



カドカワ読書タイム



ISBN



978-4-04-680132-6


表紙の画像は「版元ドットコム」様より



どうも夏鎖芽羽です(≧∇≦)この感想はブログ「本達は荒野に眠る」のものです。無断転載は禁止しています
さて、今回紹介するのは古宮九時さんの「彼女は僕の「顔」を知らない。」です!
⚠︎致命的なネタバレはないですがミステリ作品の感想のため未読の方は注意してください
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夏休みのフリースクールで起きたキャンプ場放火事件。複数の死者を出したその事件から10年。生存者である新塚良の前に現れたのは同じく生存者である静葉だった。放火事件の当日に怪しい黒い男に遭遇したという彼女の証言から、放火事件の真実を追い求めることになるが彼女は人の顔が認識できない失貌症を患っていた。差出人不明の脅迫状が届く中、果たして良と静葉は真実にたどり着くことができるのか…

古宮九時さんの新作。最近では電撃の新文芸からファンタジー作品を出版されていますね。もちろんそちらの作品も大好きなのですが「死に見る僕と、明日死ぬ君の事件簿」「純真を歌え、トラヴィアータ」といった古宮さんがこれまでMW文庫で発表されてきた作品も大好きなのでMW文庫の新作が読めて嬉しいです。10年前の放火事件の謎を追うというミステリとしての軸はしっかりしていながらも、青春ものとしても楽しめる作品でした。面白かったです。

少し問題を抱える生徒たちが集まる夏休みのフリースクール。そこの会場で起きたキャンプ場放火事件。数人の死者を出した凄惨な放火事件の生き残りである良。彼は人の負の感情を強く感じてしまう体質に悩まされながら生きています。彼の生きづらさは序盤から痛いほどに伝わってきますね。そんなある日、転校生として放火事件の生き残りの1人である静葉がやってきます。

静葉は失貌症という人の顔を認知できない病を患っています。そんな彼女は良が放火事件の生存者だと気づきませんが、ひょんなことをきっかけに良のことを生存者だと知ります。このシーンは運命的なものを感じられる場面でとても印象に残っています。そして静葉の証言を元に10年前の放火事件の真実を追い求めることになります。

事件に関する証拠を集めながら紡がれる良と静葉の青春模様もとてもよかったです。良と静葉が一緒に市内を巡るシーンがあるのですが、良が失貌症を患う静葉に気を遣って変な格好できたり、静葉のことを心配したり優しく気遣ってあげたり…甘酸っぱさとはまたちょっと違った不器用なだけど優しい青春を感じられました。

中盤から終盤にかけて放火事件の核に良と静葉は迫っていきます。事件の謎に関しては読むとストンと落ちる納得感がありましたね。そしてラストではここまでためてきていた青春の甘酸っぱさが花ひらく場面もありで大満足でした。

260pちょっととサクッと読める物語でありながらもミステリとしても青春ものとしても読み応え抜群の作品でした。気になった方はぜひご一読を

それではこの辺で(≧(エ)≦。)

書籍情報

タイトル



彼女は僕の「顔」を知らない。



著者



古宮九時



レーベル



メディアワークス文庫



ISBN



978-4-04-912484-2


表紙の画像は「版元ドットコム」様より



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